【GANGSTA LAB】GANGSTA RAP TOP 10000!ランキング編(TOP 10~1)

はじめに

お待たせしました。ランキング編の第20回目です。ついにTOP10が明らかになります。

定義編ビジュアライズ編をまだご覧になっていない方は、是非一度ご覧くださいね。

それでは行ってみましょう。

ランキングの読み方

ランキングの読み方は上図の通りです。各項目の詳細は定義編をご覧ください。

なお、基本的には「掲載数」と「媒体数」により順位付けをしていますが、同じスコアだった場合には下記の要領で機械的に処理しています。

  1. 掲載数が多い順
  2. 媒体数が多い順
  3. アーティスト名(アルファベット順)
  4. リリース年(早い順)
  5. 作品タイトル(アルファベット順)
  6. 国名(アルファベット順)
  7. 州名(アルファベット順)
  8. 街名(アルファベット順)

不明な情報はブランク「-」となっています。詳細をご存知の方がいらっしゃいましたら、情報提供頂けますと幸いです。

それではランキング本体を見ていきましょう。

第10位

00010 - AL-D 『Home Of The Free』 1995 (US > South > West South Central > Texas > Houston) 〔1,1,0,5,8,47,6/↔︎6,↕︎68〕

2006年のジャケ違い再発盤『Home Of The Free & Mind At Ease Remix』を初めて聴いた頃は、正直、全く良さが分からず、すぐにモバオクで売ってしまいました。未成年の未熟な耳には早すぎた代物ですが、15年以上経ってようやく価値がわかるようになりました。

「ISLEY BROTHERS – Make Me Say It Again Girl」使いの真夜中系哀愁チル「Long Live 83rd」といったわかりやすい曲もさることながら、怪鳥の鳴き声のような鳴り物が飛び交う不気味なディープメロウ「Lost In Tha Hood」、荒涼とした星空を思わせる真夜中哀愁チルとこどもラップのアンバランスさが絶妙な「Who Am I 2 Look Up 2」といったクセ強めな楽曲がアラフォーの耳には心地よく感じます。

そして何よりハマるのが「Lost In Tha Hood」をスクリューした「Screw 1」でしょう。BPMが下がることより、怪鳥は巨大化し恐竜となり、不気味な鳴き声とドロドロのメロウなトラックが異世界に案内してくれます。当サイトでは音楽の印象により想起される風景を大切にしていますが、この景色はどこにも属さない唯一無二のものです。

本作が2006年に再発された少し前、巷では KANYE WEST が「CHAKA KHAN – Through The Fire」のBPMを上げて「早回し」した「Through The Wire」が流行ったりしていましたが、「人と違うもの」を志向する GANGSTA RAP フリークたちの熱視線は断然、BPMを下げる「スクリュー」に向いていました。どちらも原曲のBPMを極端に変えることで全く別の印象に仕立て上げるという点で、既存のものを再利用して新たな価値を生み出すという HIP HOP の方法論の延長にありますが、前者がクリエイティブ寄りな HIP HOP の考え方に近いのに対し、後者は純粋に快楽を探求している点が異なります。

当時の現地でのスクリューの楽しみ方は決して推奨されるものではなく、我々の想像を絶するため記載は避けますが、発明者である DJ SCREW や S.U.C. のメンバーがその弊害で亡くなっていることも考えると、手放しにスクリュー文化を称賛することはできません。ただ、そうした背景をいったん横に置いて、純粋に音楽として向き合ったとき、快楽の探求という本質的な音楽への愛が垣間見えることもまた事実でしょう。

第9位

00009 - YOUNG MURDER SQUAD 『How We Livin'』 1995 (US > West > Pacific > California > Los Angeles) 〔1,1,1,12,5,48,1/↔︎7,↕︎69〕

SCC (SOUTH CENTRAL CARTEL) こと MURDER SQUAD 周辺の若手構成員によるレア人気名盤で、2003年に再発されたときにはジャケ違いではあるものの大きな話題となりました。前述の AL-D とは異なり、当時まだ高校生だった私の未熟な耳にも優しい万人受けする内容で、現在に至るまで永く聴き続けています。

ネタを贅沢に用いた星空系チルの仕上がりが素晴らしく、「SWITCH – There’ll Never Be」使いの昇天系「To Tha G」、「WILD CHERRY – Hold On」使いのアーシーな「BG’z Ta OG’z」は何度聴いたかわかりません。

しかし特筆すべきはネタものではなく、1曲目、PRODEJE による「How We Livin’」でしょう。当企画でも度々表現してきたしっとりとした「星空系哀愁チル」ながら、フックでフィメールヴォーカルが「イーサイ・ウェッサイ」と連呼することでフロアボムとしても機能し得るという、両刀使いの名品です。実際、2007年頃の渋谷 ASIA の大フロアで爆音で流れたときはあまりにも神々しく、このジャンルを極めようと固く誓ったのを覚えています。

ただ、正確には、リリックの内容は成り上がり/自己顕示系なので本来の用途はフロアボムと思われ、歌詞の意味ががわからない異国人として純粋に音楽として聴いた印象から勝手に「星空系哀愁チル」等とレッテルを貼っているに過ぎません。彼らからすればメッセージを伝えるという目的を果たすための手段に過ぎない音楽ですが、我々は必死でその手段から何かを感じ取ろうとしています。

この構図自体は滑稽なものですが、その分、意味から解放されて様々な楽しみ方ができるのは異国人の特権とも言えるでしょう。叶わない夢ですが、願わくば異国人の耳で日本のシティポップを聴いてみたいものです。

第8位

00008 - PLAYA G 『Pimp Sh*T』 1996 (US > South > East South Central > Tennessee > Memphis) 〔1,1,1,12,2,47,5/↔︎7,↕︎69〕

GANGSTA RAP とは何ぞや?を超高濃度でビジュアライズしたペンピク製ジャケットの強烈なインパクトにより、初代 G-LUV でもアイコン的存在として一際輝いていたレア人気名盤です。相模原 EIGHT TWO WISE フライヤーでのパロディでもお馴染みですね。(「THE BEST OF EROTIC JACKET」p222参照)

2020年のOBI付き国内盤の正規再発とコロナ禍での来日ツアーによってすっかりお茶の間にも浸透しアマゾンで気軽にポチれるようになりましたが、2000年台初頭にはカルト的な人気と流通量の少なさから相場が跳ね上がり国産ブートまで出回る始末でした。ちなみに1996年の初代US盤には盤面が青いOG盤と盤面が透明でS.O.H.マークのあるリイシュー盤の2種類があり、正規再発盤とブート盤はいずれもリイシュー盤を模したものとなっています。

内容的にはジャケのような派手さはなく、全編で蠢くベースラインの上を漂う特徴的な「中音域」シンセが空間に奥行きを与え、ディープな世界観を演出しています。西モノのカラッとした高音域シンセが糸のイメージなら、本作ではそれが束になって縄になっているような厚みのあるサウンドが特徴と言えるでしょう。

中でも、真夜中系哀愁メロウ「Something To Ride To」ではこうした特徴が特によく表現されており、古くから MIX やイベントの定番として語り継がれてきました。ただ、今でこそ調べればわかることですが、実はこの曲が、本作のたった1年前にリリースされたニューヨークの R&B〜SOUL〜ACID JAZZ バンド「REPERCUSSIONS – Slice Of Heaven」のモロ使いだということを知る人は一体どれくらいいたのでしょうか。

一般的にGANGSTA RAP のサンプリングソースは、1990年台に20代ぐらいの彼らが幼少期に聴いて育った思い入れのある楽曲、すなわち1970年代~1980年代のものへのリスペクトを込めて用いられることが多いのですが、この曲に関してはおそらくアルバム制作期間にちょうどリリースされていたと思われる「新譜」を用いており、人間的な繋がりもなさそうなところからこの曲を選んだ審美眼については非常に興味深いところです。2020年の来日ツアーは残念ながらコロナ禍で行けませんでしたが、機会があれば聞いてみたかったですね。

第7位

00007 - LIL CHILL 『Ain'T No Luv Lost』 1995 (US > West > Pacific > California > Compton) 〔1,1,0,7,5,55,1/↔︎6,↕︎70〕

GANGSTA LUV 誌では DON TACOS 氏による14選のうちの11番目としてほんの数センチのスペースだけでの登場であったにも関わらず、「2パックを突き詰めると、リル・チルになる。」というあまりにも強力で的確なパンチラインを多くの人の記憶に刻み込んだ名盤です。

私はこの作品以上にジャケと中身の世界観が一致する作品を他に知りません。当サイトでは日頃より音楽から見える風景を大切にしていますが、本作の収録曲は一貫してこのジャケのような夕暮れの曇天が似合う哀愁漂う風景を見せてくれます。哀愁といっても南部のようなコッテリしたものではなく、ジャケのヤシの木が物語るように比較的さっぱりしたテイストに仕上がっており、まさに2PACから聴き進んだビギナーの方にも耳馴染みが良く、人気のほどが伺えます。

個別の楽曲に触れるとキリがないのですが、「LUTHER INGRAM – (If Loving You Is Wrong) I Don’t Want To Be Right」ネタの「The Enemy」、「CON FUNK SHUN – All Up To You」ネタの「Raised In The Hub (City Of Compton)」、「MR. X – Flossin」でお馴染み「ISLEY BROTHERS – Summer Breeze」ネタの「Ghetto Child」、「BOOTSY’S RUBBER BAND – Munchies For Your Love」ネタの「AIn’t No Luv Lost」、「THE NEW BIRTH – It’s Been A Long Time」ネタの「Sleep Don’t Come E-Z」、「I Won’t Go Down」と、全編を通してハイクオリティな哀愁が充満しています。

本作がリリースされた1995年頃の日本のヒップホップメディアでは西モノは冷遇され、西モノを聴くこと自体を恥ずべきことと感じるリスナーもいたようです。当時の西モノへのレビュー記事をみると「金太郎飴でどれも同じような曲ばかりで退屈」「ネタのモロづかいばかりでオリジナリティがない」というあたりがその手の論者の言い分のようですが、むしろ、流行や世界が目まぐるしく変わる中で頑なに伝統を守ることは簡単なことではなく、それなりの覚悟を伴うものであり、伝統芸能の担い手として正当に評価されるべきものだと思います。

このように本作はアルバムを通して聴ける伝統芸能的な哀愁名盤ではありますが、LIL CHILL による個別の楽曲という意味では、322位にランクインした VARIOUS『Westpresentin The West In Peace Compilation』に収録されている「MC EIHT – Streiht Up Menace」使いの超絶黄昏哀愁チル「No Brighter Dayz」に軍配が上がるでしょう(こちらはアルバム未収録です)。

とはいえ、本作がまごうことなき「金太郎飴的な」(褒め言葉)名盤であることに間違いありません。

第6位

00006 - MURDER INC. 『Playin' For Keeps』 1995 (US > South > West South Central > Louisiana > New Orleans) 〔1,1,1,12,7,47,1/↔︎7,↕︎70〕

『甘茶ソウル百科事典』をして、著しく購買意欲を削ぐと評されたペンピク謹製ホラージャケが強烈なインパクトを放つ、スカルジャケ界の頂点付近に鎮座する人気名盤です。多くのスカルジャケは物体としてのスカルを描いていますが、このスカルはやけにリアルな目から意志を感じるのが気持ち悪い(褒め言葉)ですね。裏ジャケではマジックアワーの紫の空と文字の配色が素晴らしく、私はこれほどまでに美しく幻想的な墓場の景色は見たことがありません。2000年代初頭には国産ブートが出回り、2020年には正規に再発されました。

ジャケからしてホラーコア・デスメタル的な派手めな要素が強いかと思いきや、そうしたイメージに近いのはアップテンポに高音シンセが緊迫感を煽る「187 Real」ぐらいで、その他はうねるベースと高音シンセが癖になる「Playin For Keeps」、ビヨンビヨンなベースにコーラスを配したミッドファンク「Down South」など、ディープで玄人好みな仕上がりになっています。私の耳が未熟なだけなのかもしれませんが、正直、ジャケ同様に聴き手を選ぶ内容であり、この順位に相応しいとは言い難いのではないかと思います。

むしろ、同じ MURDER INC. 作品なら、59位にランクインした1997年(2017年再発)の2nd「Let’s Die Together」の方が内容的には充実していると感じます。こちらも気味の悪い白塗り+墓場ジャケですが、本当に逝ってしまいそうな夢見心地の星空チル「Niggas-X-Spired」、「MAD CJ MAC – Come And Take A Ride」風のシンセが心地よい真夜中ドライブ「Fuck Friends」、ハードな「Slugfest」と、楽曲の幅・質ともに1stからの2年間でかなり向上しています。

なお、1995年の1stではメンバーは4人で、名盤『I Shed Tears For The World』や『Please Don’t Kill Me』での2PAC似のフロウでおなじみのCRAZY、名盤『Pressure & Pain』が2022年に再発された LEGEND MAN、こちらも『True 2 Life』が2021年に再発された MC L、そして紅一点のゴリゴリフィメールラッパー ALAMO というなかなか豪華な Incorporated でしたが、1997年の2ndでは CRAZY と ALAMO の2名体制になっています。必ずしも豪華メンバーを集めておけば良いというわけでもなさそうですね。

余談ですが、Wikipediaによるとニューオーリンズは海抜が低く広大な湿地帯が広がっており、浸水を避けるために地下に土葬するのではなく地上に埋葬室を設けるのが一般的なようです。となると、このジャケに映る土葬スタイルは一体何なのかということになります。彼らが比較的高台の出身なのか、または湿地帯でも土葬を余儀なくされる環境にいたのか、不気味な謎は深まるばかりです。

第5位

00005 - LIL ½ DEAD 『Steel On A Mission』 1996 (US > West > Pacific > California > Long Beach) 〔1,1,1,9,4,53,1/↔︎7,↕︎70〕

SNOOP DOGGY DOGG, NATE DOGG, WARREN G, DAZ DILLINGER, KURUPT, EASTSIDAZ, TWINZ, FOESUM etc…数えきれないほどのビッグネームがひしめくウェッサイの聖地、カリフォルニア州ロングビーチ(LBC)産の最高位に見事輝いたのは、彼らに比べて決して認知度は高くない「半分死んでいる」男の2ndアルバムです。

昨今我々がイメージするブリブリで高音シンセが効いたG-FUNKサウンドの「教科書」的な内容で、徹底した完成度と流通量の少なさから希少価値が高く、長らく神格化されて語り継がれてきたレア人気盤です。2016年には日本語解説(読みたい)付きの国内正規再発が実現し、しかもまさかの定価1,200円ということもあって多くのウェッサイフリークは狂喜乱舞、20年の時を経てようやく「教科書」が大衆に行き渡ったのでした。

SNOOP DOGGY DOGG の従兄弟という枕詞で知られ、すなわち NATE DOGG や DAZ DILLINGER とも親戚関係にあると思われますが、本作には大御所の客演はありません。また、プロデュースは1stでも数曲を手掛けた KENNETH “K-PHLX” MANNING と DAMON “TWIN” ROSE の2名体制ですが、この名前を聞いてピンとくる人の方が少ないでしょう。さらには、西モノにありがちな大ネタ使いもほぼありません。このように客観的な情報だけを捉えるとアピールできる要素は非常に少ないのですが、それを補って余りある「聴けばわかる」怒涛の内容が本作を名盤たらしめています。

2名がそれぞれプロデュースしたネタ使いの2曲、「MAZE – Southern Girl」ネタのサンセットディープチル「Southern Girl」と貫禄系G-FUNK「CAMEO – Please You」ネタの「Cavvy Sounds」が素晴らしいのは当然として、特筆すべきはネタ使いをしていない(と思われる)楽曲のクオリティです。「Low Down」「Back In The Day」「If You Don’t Know」「Young HD」「Still Rollin’」といった「金太郎飴的な」(褒め言葉)G-FUNKのそれぞれが恐ろしい完成度を誇っており、これをほぼ無名の2名がつくりあげたという事実に戦慄せざるを得ません。

時代背景的には、ネタ使いの権利関係の問題が表面化し、サンプリングから弾き直しに移行し始めた頃かと思います。完全な推測(妄想)ですが、そうした様々な制約の中でネタではなくいっそオリジナルを演るという視点から生み出された、HIP HOP というよりある意味 FUNK としてつくられた作品なのかもしれません。最近では作曲のハードルが下がり、ブリブリのベースと高音シンセというG-FUNKのアイコニックな音を用いた90年代回帰的な新譜を耳にすることも多くなりましたが、それらに心が動かされないのは、彼らの目指すところが G-FUNK の模倣に過ぎず、何かを表現したいというオリジナリティがないからではないでしょうか。

オリジナルな FUNK を追求した結果として G-FUNK として結実した本作の足元にも及ばないのは明らかです。

第4位

00004 - MAD CJ MAC 『True Game』 1995 (US > West > Pacific > California > Los Angeles) 〔1,1,1,9,4,56,0/↔︎6,↕︎72〕

テキサス州ヒューストンで銀行勤めをしていた JAMES SMITH こと J PRINCE によって設立された名門 RAP-A-LOT RECORDS から、カリフォルニア州ロサンゼルスはサウスセントラルのベテラン CJ MAC とプロデューサー MAD のデュオによる初の西モノです。出所は若干ややこしいですが、誰もが認めるウェッサイクラシックですね。

MADの父で、1976年に『Songs For Evolution』をリリースしたペンシルベニア州フィラデルフィアのソウルグループ ANGLO SAXON BROWN でヴォーカルとギターを担当していたCLEMENT BURNETT, SR.が「Powda Puff」を除く全編でエレクトリックギターで参加しており、その他の楽器演奏は MAD が担っています。さらには、それぞれの音のバランスを司り楽曲の印象を大きく左右するミックスには名門 RAP-A-LOT RECORDS を黎明期から支え続けた敏腕 MIKE DEAN が名を連ねており、『True Game』の名に恥じない盤石の布陣であることがうかがえますね。

全編を通してメロディアスでゆったりしたG-FUNKのクオリティがすこぶる高く、サンセットチル「Dead Man Walkin」や「Powda Puff」、ディープめな「Losin My Mind」など聴きどころが非常に多いのですが、何と言っても永遠のクルージングチューン「Come And Take A Ride」が最大の目玉でしょう。筆者はローライダーではなくましてやペーパードライバーではありますが、エンジンのように悠然とうねる心地よいベースラインと、夜風のように漂う中毒性の高い高音シンセは、さながらロサンゼルスの街を車で徘徊しているような錯覚に陥らせてくれます。

GANGSTA RAP において他の楽曲をサンプリングしたりカバーしたり弾き直したりすることは多々ありますが、「Come And Take A Ride」はその絶大なカリスマ性からか、逆に多くの楽曲で二次利用されています。WhoSampled調べで主なものを時系列で見ていくと、1997年にはブラジルで「BASEADO NAS RUAS – Alucinação」、1998年には同じくブラジルで「FACES DO SUBURBIO – Deus Abençoes a Todos」、2012年にはセルビアで「BVANA IZ LAGUNE & MICKREY MOUSE – Na Adi (Remix)」、2015年にはアメリカで「LE$ – Caddy」「AIMAJOR – Mr. Make It Happen」、2019年にはフランスで 「DIDDI TRIX – Comme Ça」と、時代や地域を超えて愛されていることがよくわかりますね。

なお、このサイトには掲載されていませんでしたが、2009年DJ 2HIGH氏プロの国産G-FUNK「K.O.G. – Night Cruise」でのさりげない使用例も絶品です。

第3位

00003 - VONTEL 『Vision Of A Dream』 1998 (US > West > Mountain > Arizona > Phoenix) 〔1,1,1,9,2,62,0/↔︎6,↕︎76〕

カリフォルニア州ロサンゼルスから車で約6時間、日本で言えば東京〜大阪と同じぐらいというとイメージしやすい、アメリカ西海岸内陸部アリゾナ州フェニックスからの至宝です。

フェニックス産の作品は決して多くはありませんが、どれも粒揃いで、特に45位にランクインした MR. IROC『Finally On The Map』、15位にランクインした BOOKIE『Stressin』と本作は、全米でも通用する3種の神器と言って差し支えないでしょう。2022年にリリースされた1999年のお蔵入り作品 THA PRODUCT CLICK『Terrorzone』も大変素晴らしかったですね。

一見すると INDIE SOUL 風な穏やかな出立ちですが、静かに輝く ADVISORY マーク、裏ジャケに刻まれた FO’ LIFE RECORDS の獄中ロゴ、15曲中5曲をレジェンド BATTLECAT がプロデュース、15曲中4曲で ROGER TROUTMAN 御大がトークボックスで参加しているという確かな事実が、この男が只者ではないことを物語っています。

さらには BATTLECAT と ROGER TROUTMAN が共演した貴重な楽曲が2曲もあり、中でも「GAP BAND – Yearning For Your Love」をやんわり用いフィメールヴォーカル NA-NAを絡ませた真夜中系哀愁チル「Say Playa」は、数ある BATTLECAT ワークの中でも屈指の仕上がりと言えるでしょう。

しかし本作最大の肝は、BATTLECAT が関与していない残りの10曲の中にあります。これらを手掛けたのは勝手知ったる同郷フェニックスの DRE LESEAN と ROBERT “THE PROFESSOR” ANDERSON の2人組で、前者は MC MAGIC『Don’t Worry』での「I’lletyoudoit-2-me」「Excited」「Dre’s Groove (4-The-Bedroom)」で見せた甘いメロウネス、後者は NUTMEG『Ghetto Child』での「You Don’t Know」で見せたファンクネスの役割から楽曲制作に取り組んだものと想像します。

彼らの楽曲は、REMIX がフロアボムとして有名な1曲目「Dream No More」からラストのピースフルなチル「Down 4 U」まで、メロウネスとファンクネスのバランスが良く、どれも BATTLECAT と並べても遜色のない出来栄えなのですが、中でも ROGER TROUTMAN と共演した甘く蕩けるフローターメロウ「4 My Homiez」は、GANGSTA RAP 界はおろか ROGER TROUTMAN 関連の全作品の中でも屈指の至宝と断言できます。

当楽曲でもフレーズとして用いられた「Computer Love」的なほのかなファンクネス、「I Want To Be Your Man」的な蕩ける切なさ、「Slow And Easy」的なスケール感と、ROGER TROUTMAN の旨味が見事に濃縮され、機械と人間のはざまを漂うようなまさに夢見心地の世界を堪能できます。

無名の地、無名のアーティストたちによって放たれた、メジャーを遥かに凌ぐ奇跡の名作です。

第2位

00002 - WATTS GANGSTAS 『The Real』 1995 (US > West > Pacific > California > Los Angeles) 〔1,1,1,8,5,66,0/↔︎6,↕︎82〕

カリフォルニア州ロサンゼルス南部、1965年の暴動以降、全米屈指の犯罪多発地域として名高い「GANGSTA RAP の名門」ワッツからの大名盤です。現地人でも足を踏み入れるのを躊躇うほどの危険エリアということもあり、リリース当時から流通はもちろん情報もほとんどなく、田舎のヤンキー伝説的に尾ひれはひれがついて神格化されてきましたが、2017年にはまさかの来日公演を果たし、国内正規再発盤もリリースされ、今ではすっかり身近な存在になりました。(なお、再発盤の商品解説に『GANGSTA LUV』掲載との記載がありますが、掲載されていないと思われます。)

来日前の2016年に2TIGHTが接触するまで、本作が世界中に広まっていることを本人たちは知らなかったという嘘のようなエピソードを耳にしましたが、少なくともインターネットやSNSが既に普及していた2016年当時、GANGSTA RAP のリスナーで本作を知らない人は皆無だったでしょう。音楽から距離を置いてリアルライフに勤しんでいたのか、過去を振り返らずに常に前を向いていたのかは定かではありませんが、本企画でも掲載してきた星の数ほどある素晴らしいアーティストの中にも同じような境遇にある方々がいるかと思うと、彼らが人々の記憶から埋もれないように正しく広く情報発信をし続けていこうという責任感のようなものすら感じます。(大袈裟か)

肝心の内容ですが、ワッツの名に恥じない骨太のバンギンシットが史上稀に見る容量で搭載された、正真正銘の GANGSTA RAP です。犯罪多発地域ということもありストリート色の強いプロダクションかと思いきや、80年代から数々の作品でクレジットを目にすることができるベテランシンガーソングライターギタリスト THOMAS ORGAN と、同じくベテランドラマーの DREAK ORGAN の兄弟が全12曲中5曲を手掛けており、音楽性の高さを垣間見ることができます。その他、ワッツ出身の先輩 KAM が M.C. CAM 名義でリリースした1989年の1stシングル「My Daydream」を手掛けてから6年間音沙汰のなかった BIG JESSや、本作以前では1993年に「2PAC – Keep Ya Head Up (Vibe Tribe Remix)」でスクラッチを披露していたぐらいだった L.BURN aka STEP 1 が急成長して手腕を披露しており、層の厚さが感じられます。

「PARLIAMENT – Theme From The Black Hole」使いの極悪バンギンフロアボム「Wanna Be」、数々のG-FUNKクラシックからのフレーズ引用とフックでの黄金シンセが眩い重量級バンギン「Watts Riders」、危険な雰囲気プンプンな「Slangin As I Speak」、「PRINCE – If I Was Your Girlfriend」使いの呪術的な「Come Take A Ride」、「VAUGHAN MASON AND CREW – Bounce, Rock, Skate, Roll」使いのヘビーファンク「Stay True」と、GANGSTA RAP を体現したかのようなゴリゴリの楽曲は言わずもがなどれも素晴らしい仕上がりです。

このように、一般的にはバンギンの名盤として名高い本作ですが、本作の主題はそんな中に静かに佇む「ISLEY BROTHERS – Voyage To Atlantis」ネタの夕暮れ哀愁チル「Fuct In The Game」にこそあると筆者は考えます。このネタのカバーやサンプリングは腐るほどありますが、本作は「哀愁度」において原曲をも超える、群を抜いた仕上がりです。完全な妄想ですが、極論すれば、本作に大量搭載されたバンギンシットは、この1曲を引き立たせるための壮大な舞台装置であるという見方はできないでしょうか。我々の想像を遥かに超えるタフな環境を生き抜いてきた彼らだからこそ、暴力の真理=力で力をねじ伏せることの虚無感、何の変哲もない日々を普通に生き延びることがいかに尊いかということを等身大で表現できるのだと思います。

最終話のために全てを捧げる、古谷実『シガテラ』の如きドラマティックな名盤です。

第1位

00001 - MASS 187 『Real Trues Paying Dues』 1995 (US > Midwest > West North Central > Missouri > Kansas City) 〔1,1,1,8,3,74,2/↔︎7,↕︎90〕

カリフォルニア州、テキサス州といった主要産地を押さえ1位に輝いたのは、アメリカ中西部有数の世界都市ミズーリ州カンザスシティ出身の MASS 187 です。一般の日本人にはあまり馴染みのないエリアですが、地理的にも人口的にもアメリカの中心(Heart of America)であり、玄人GANGSTA RAP リスナーの間では「KCMO(Kansas City, MO)」は一大産地として広く認知されています。

13位にランクインした1997年の2nd、「Kansas City」を文字った「Krooked City」がフロアボム多めのゴリゴリ仕様なのに対し、1stの本作はタイトルが示す通り多くの「下積み経験」に裏打ちされた燻銀路線、これといって目立つ楽曲があるというよりも、全編を通じて雰囲気を演出するタイプのこなれた仕上がりになっています。突出した個の力よりも総体としての力を重視した戦略はヒューストンの敏腕プロデューサー BRUCE “GRIM REAPER” RHODES によるものと思われ、長く聴ける普遍的な魅力こそが多くの支持を集めた秘訣なのかもしれません。

全編を通してゆったりとした黄昏系哀愁トラックが秀逸で、「ROY AYERS UBIQUITY – Everybody Loves The Sunshine」ネタの「South Side」、「THE GAME – Angel」や「JACKERS – Down 4 Life」と同じ「GIL SCOTT-HERON – Angel Dust」ネタの「Gangsta Strut」、フィメールラッパーMARE JAYNEのけだるいラップがたまらない「NORMAN CONNORS – You Are My Starship」ネタの「Outside」、「DARYL HALL & JOHN OATES – Sara Smile」ネタの「Shit Runs Deep」といった楽曲群の応酬がひたすら心地よく、何も考えずにプレイヤーに投入したら最後、ズブズブと1日中リピートしてしまいそうな魔力を秘めています。

そして何より、この作品の価値を2割増にしているのは、1968年キャデラックコンバーチブルが美しすぎる PEN & PIXEL GRAPHICS によるジャケットでしょう。GANGSTA LUV 2 ペンピク特集のインタビューにて、同社のビジュアル担当 SHAWN BRAUCH 氏をして最もシンプルと評された芸術的な構図は、音楽という実態のない魂を収める器としての役割を果たすと共に、現代においては失われてしまった「音楽を所有する」という本能的な欲求を強く刺激することで、多くの人々を魅了してきたのだと思います。この点は、昨今のCD→レコード再発の動きとも密接に関係しているでしょう。人間は形あるものを欲するのです。

日頃から音楽の内容そのものと向き合うことを標榜している当サイトの、GANGSTA RAP TOP 10000「音楽」レビューのシメとなる記事で元も子もないことですが、やはり内容だけではなく外見にも気を配れることが、群雄割拠の世界で戦う真の一流の条件なのでしょう。もちろん内容が伴っていることは最低条件であり、外見ばかりに気を配って中身が伴っていないのは論外ですが、そもそも情報量の少ない GANGSTA RAP においては視覚的情報が占めるウェイトは無意識のうちに高まるということを自覚しておくことが、この沼を掘り進める本質的な音楽探求の助けとなるでしょう。

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ATAMIC DOGG

熱海出身の元DJ。2000年頃から掘り続けてきた"G"な音楽を紹介します。GANGSTA RAP、SOUL、FUNK、R&B、JAPANESE CITY POP 等、定番から知られざる名曲まで惜しみなく公開していきます。掘れば掘るほど湧き出る"G"の温泉を、ごゆっくりお楽しみください。
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